会見場の扉が開いた。
キューバ側の同席者や取材陣が目を見張った。
カストロ国家評議会議長が、いつもの軍服姿でなく、
スーツ姿で現れた。
1996年６月25日、
場所は首都ハバナの革命宮殿。
時間は午後７時半を回っている。
「背広姿が、よくお似合いですね」。
池田SGI（創価学会インタナショナル）会長が語ると、
議長が照れくさそうに、ほほ笑んだ。
「平和主義者を迎えるのに、
ふさわしい服に着がえました」
国内の公式行事にスーツ姿で臨むのは、
革命以来、初めてのことだという。
ネクタイは、青地に白の縞模様。
それに触れながら、
「文化大臣のほうが、ネクタイの選び方は、
うまいかもしれませんね！」
とSGI会長が言うと、
そばいにいたハルト文化大臣も、報道陣も、
はじけるように爆笑した。
議長も笑いながら、
「ネクタイのことは、よく知らないんです」。
SGI会長が返した。
「それでいいんです。
人民のことを知っていることが偉大なんです」
そして真っすぐに議長を見つめた。
「戦い抜いてこられましたね…」
腐敗したバチスタ政権を打倒した当時、
議長は32歳。以来37年間、風雲の中を、
革命の理想のたいまつを掲げ、戦い抜いてきた――。
中略
“仏法者に反米も反キューバもない。
「平和」という根本の意思さえ合致すれば、
対話の可能性を探るべきだ”。
これがSGI会長の真情であった。
１時間半の会見は冒頭の
“ネクタイ談議”の後、非公開となるが、
「後継者」「人材育成」「政治哲学」など、
話題は多岐にわたった。
「核兵器は絶対に無用」との意見で一致も見た。
「創価学会の皆さんは、
平和のための活動に全魂を傾けておられますね。
だから尊敬します」
とも議長は語った。
会見の後、議長への創価大学名誉博士号の授与式でも、
40分間にわたって熱弁を振るった。
「今回のSGIの皆さまのキューバ訪問は、
平和に貢献する人間主義を主張する上で、
重要なことと思っています」
「皆さまは人材育成に関しても幼稚園から大学まで、
しかも国内にとどまらず、国際的に教育を実施されています。
我々にとっての理想を示してくださっているのが、
あなた方なのです」
議長は会見の２ヶ月後、ハバナで開催中の、
東京富士美術館による「日本美術の名宝展」に
足を運んだ（８月11日）。
翌97年には「キューバ国立美術館名作展」
が日本で実現。
SGI会長はシンティオ・ヴィティエール博士と、
ホセ・マルティの思想と生涯を語る対談集
『カリブの太陽 正義の詩』を発刊。
2007年にはキューバ創価学会が法人認可され、
社会貢献の歩みを進めている。
「私は、SGI会長を真の友人と思っています」
――カリブ海に結ばれた友情は、宝石のように輝きを放ち続ける。
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